神々の大地 クリスタニア

新しき民って結構クリスタニアのこと知らないのな。暮らし振りがまるで違うからさ。そこで俺達、商業の部族の出番てわけよ。この前成人の儀を済ましたばかりの語り部を紹介しよう。

クリスタニアとは—双面の民の集落コルススのアンリア語りき

 クリスタニアとは何かですって? わたしに尋ねてくれるとは光栄です。いいでしょう、お答えしますとも。

 ここで銀狼の語り部なら「始めに巨人ありき……」なんて始めるんでしょうが、わたしはそんなことはしません。そういう「正しい」歴史が知りたいのなら、他の部族に行かれるといいでしょう。影の民が語るような哀愁も、悟りどものような謎めいた言い回しも、わたしの話には無しです。それじゃクリスタニアを一周したって終わりませんから!

 そう、クリスタニアっていうのは大陸の名前です。貴方とわたしが今いる、この大陸。わたしは他所から来た新しき民に説明する時は、いつも「神獣の大陸だ」ということにしています。こう言えば相手は意味が分からないから、ますますわたしの話に耳を傾けるってわけですよ、ふふふ。なに、別にそれだけの理由でこんな言い方をしているわけではありませんよ? この言葉からは幾つも意味が引き出せるからこう言っているんです。クリスタニアを語る幾つもの側面がね。

 それでは最初の意味です。神々。ここには貴方がたの考えているよりずっと多くの神がいます。そしてそれぞれ、自然の事象を司っているんですよ。例えば、お隣の猛虎の民が従うバルバスは支配や復讐、影の民崇めるアルケナなら運命、悟りの民のメルキシュなら秘密、謎といった具合です。当然ですが、支配している物に優劣はありません。我等がスマーシュの教える虚偽というのも、フェネスの秩序と全く同じ重みを持つんです!

 第二の意味は獣。神は皆獣の姿を取っています。これにはそうせざるを得ない理由があって……。いけない、そんなことを語っていては銀狼の民と一緒になってしまう。わたしもまだまだ未熟ですね。今はてっとりばやく説明するのが第一なんですから。とにかく獣に魂を封じた神々は、その動物ゆかりの力も手に入れました。逆に自分の能力を活かせる獣を選んだとも言えるでしょうか。そしてその力は、わたし達神獣の民のビーストマスターにも与えられたんです。残念ながらわたしはビーストマスターでないのでその力は見せられませんが、双尾の狐スマーシュは、例えば狐の目と鼻を与えてくれています。この集落にいれば、遠からず目にできると思いますよ。神は自分が選んだのと同種の獣、何頭かにも、力を与えました。これが「眷族」と呼ばれる獣達です。姿まで神獣と同じで、スマーシュの眷族ツインテイル・フォックスは、だから尻尾が二本あるのです。それにわたし達は眷族で無い動物にも敬意を払っていますよ。ほら、この帽子、狐の毛皮で作ったんですよ。眷族とは違って、狐なんかは殺すことが敬い方でもあるんですね。次の周期もまた、捕まってわたしの帽子になってくれますように。

 話のついでだから、周期の話しもしましょうか? ……と、大分お疲れのようですね。続きはまたにしましょうか。いやはやわたしも、もっとかいつまんで説明できるようになりたいものです。精進精進。さ、食事にしましょう。

 クリスタニアへようこそ。クリスタニアはアンリアの言うような大陸であると同時に、そこを舞台とした物語達でもあります。ネイティブ・アメリカンの世界観を元にライトファンタジーをやってしまうという意欲作です。作家の水野良氏を中心にRPG、小説、映画などで展開。以下にも、クリスタニアがよく分かる物を挙げておくので参考にしてください。あ、あと当サイトのリンクページも。

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(水野良。小説。全4巻)
 クリスタニアを舞台にした小説は幾つも出ていますが、これが断然お勧め。読み易いし、「他所者」である主人公が徐々に徐々にクリスタニアに慣れていくので、ゆっくりとクリスタニアのことを知っていけます。一応絶版ですが、古本屋等ではよく見掛けると思います。メディアワークス刊、電撃文庫です。
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(水野良とグループSNE)
 クリスタニア大陸を舞台にしたRPGのルールブックです。長らく絶版でしたが、復刻版がブッキングから発売されています。
スタジオ・フィラデルフィア(ウェブサイト)
「神々の住まう地」は独自に展開なさっている Sword World in Crystania の為のクリスタニア概説ページ。よく纏まっていますし、端々に仄見える洞察力には舌を巻きます。
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(水野良とグループSNE)
『クリスタニアRPG』での「今」を特徴付ける事件が「混沌の解放」ですが、その経緯を扱ったリプレイ集です。これも古本屋にあると思います。メディアワークス刊、電撃文庫/電撃ゲーム文庫です。

 さて、それでは、周期の話でしたね。周期というのがそもそも何なのかというと、「繰り返し」です。ほら、日が昇って沈んでまた昇る、これが繰り返される中にわたし達は生きていますよね? これが周期ですよ。そんなに難しいものじゃありません。太陽に因んだのは「小周期」って言うんです。もっとも、今では貴方方新しき民の流儀に従って「1日」と呼ぶことが増えてきていますけれど。季節の繰り返しが「太陽周期——1年」、太陽周期が数百回繰り返した物が「大周期」です。冬はどの太陽周期であろうと寒く、雪が積もります。これと同じように、大周期も毎回起こることが変わらないのです。例えばこの帽子になった狐は、前の周期でも、やはり父に狩られてわたしの頭に載りました。

 ところがこの大周期、十年ほど前のある事件を切っ掛けに失われてしまいました。これについては割愛です。やはり長い話になってしまいますからね。ともかく失われた大周期、わたしたちはもう、死んでも次の周期を生きるというわけにはいかなくなってしまったのです。でもこれは、まだ浸透した考え方とは言い切れないんじゃないでしょうか。新しき民は大白鳥の民の子孫と言いますから、これについては貴方の方が詳しいかもしれませんね。今度お話を聞かせてくださいよ。

 そろそろ、話を「神獣の大陸」に戻そうではありませんか。まさか忘れていただなんて言いませんよね? 突然ですが、黒鹿毛の神馬シルヴァリを知っていますか? 「調停者」の異名を取る神獣です。この神は、神々の時代から交渉、調停を司ってきました。ええ、とてもいい神です。でも、こういった神がいるということは、どういうことか分かりますか? そう、例え神々でさえ、相争うのを免れ得なかったのです! そこでこの「完璧を目指した世界」クリスタニアの神獣たちはどうしたか。それぞれの従える民を一部地域に住まわせて、接触を無くしたのです。少なくとも、最小限に。そうしないと、神の似姿——と言っても獣の姿を取る前ですが——であるわたし達神獣の民もまた、争ってしまいますから。この辺は特に、貴方達の民とは異なるところかもしれません。クリスタニアで民が争うのは、神獣の教えがぶつかる時だからです。貴方方の故郷では、神の教えに関わらず対立が起こるのだと聞きましたよ? 戦の神と平和の神それぞれの使徒が、同じ所で争い無く過ごせるかと思えば、例え同じ正義の神を信仰していても、長年いがみ合う集落もあるのだとか。新しき民の男が真紅の帝国を指揮して、フォレースル地方に侵略を仕掛けたのは記憶に新しい所です。クリスタニアでは違います。部族の信条が違うから争うのです。そうならないよう、神獣達は民の行動圏を制限したのです。これをまず最初に破ったのは、わが双面の部族ですが、これは別の機会に回しましょう。他の語り部に聞いてもらってもいいですね。わたしとは違った面を見せてくれることでしょう。

 話は終わりに近付いてきました。次に話すのは「混沌」です。これは「神獣の大陸」という言葉から演繹するのは難しいんで、取り敢えず別に聞いてください。混沌とは何か、悩ましい問題で、それ故にわたし達の心をくすぐる存在です。みんな、「今までのクリスタニアに無かった物」と言います。「時」「海」「妖魔」——貴方達「新しき民」も、少し前までは混沌に数えられていましたよ。今でもそう考えている人がいると思います。混沌の話をすると、神獣レスフェーンのことをみんな都合よく忘れます。ええ、分かりますよね、夢即ち混沌を司る神です。え? そうですね、わたし達もよく物事を都合よく忘れます。でもそれは相手を騙す為です。この場合、自分達を騙す為に忘れていますから別物ですよ。まあ、難しいかもしれませんね、ええ。取り敢えず混沌の話を続けますよ? 柔軟な頭を持っている貴方なら、こう考えるのも容易いでしょう、「もともと無いということは、クリスタニアが出来る前は世界にあったわけだ。それを排除して何の完璧か」と。かように複雑な問題を「混沌」という存在は、ウォーロック達は概念というかも知れませんね、その概念は、孕んでいるのです。ただ誰もがその側面を見出せないで、ただ排除の対象にしているだけ。

 さて、貴方が考えるべき問題も提示できたことですし、話はここでお終いです。クリスタニアが何か分かりましたよね? 集落にいる間、どうぞこの知識を他の人に聞かせてやってください。きっと笑われて、また違う話を聞かせてくれますよ。スマーシュが支配するは両面性、物事の様々な面を見出すのがわたし達の生活なのですから。でも、「神獣の治める地」ということをいつも覚えておけば、きっとそこから智恵を引き出せるでしょう。

 よければ一言残していってくれよな!