双尾の狐の始まり

スマーシュに愛されている“娘”の登場だ。

双尾の狐の始まり—スマーシュの“娘”語りき

 わしが三度目の周期を生きておった頃のことじゃ。

 成人の儀で、一頭の狐を獲りに草原に単身分け入っておった。ほれ、丁度あの辺かの。そこで草はらの上になびく尻尾を見付けてすかさず弓を放つ。見事! 一撃でその狐を仕留めたんじゃ。勿論喜んで駆け寄って行ったとも。

 じゃが……そこにいたのは黄金色の、仔狐じゃった。真後ろから矢が刺さって、真っ二つに割れた尾の付け根からだらだらと血を流しておった。そして今にも息絶えようとしておった。わしらスマーシュの力を授かった者は、かの神の眷属と話ができるからの。それですぐに分かったわ。満足に生きる術も知らぬうちに親狐に放り出されて、餌の取り方も分からず、飢え死のうとしておったんじゃ。そこへわしの追い討ち。死の間際のか細い意識が、更にどんどん弱まっていくのが分かった。

 若かったわしは焦った。どうしていいか分からず、その仔狐に尋ねた。何かできることはあるか、と。驚いたことに、そいつが言うのは、親にもっと可愛がってほしかったということじゃった。困り果てたわい。そんなの、今更、どうしろと言うんじゃ。そうだろう?

 それを聞いたわしはどうしたと思う? 親を探してやった? 優しく魂を送り返してやった? 恐くなって逃げ出した? どれも違う。わしは狐に変身した(尾が二本になってしまっておった)。その仔狐に報いる為、狐として仔を作ることにしたんじゃ。スマーシュから与えられた能力で黄金色の狐に変わって、狐を探して——眷族でない普通の者が多かった——そいつを伴侶として仔を生した。そして、眷族でも普通の狐でも、どの仔もちゃんと世話をしてやったのじゃ。わしは元々人間だからの、仔は可愛かった。捨てようという気も起こらんかった。そして、どの仔にも、わしと同じことをしてやるようにきつく言い聞かせたのじゃ。わしの一生はそれで終わった。

 さて、誰か狐の暮らしに詳しい者はいるかの? 今は、仔育てはどうしているか知っておるか? そう、その通り。確かにやがて仔は親と別れるが、それは仔を捨てるからでなく、単に仔離れするからじゃ。それに、別れる前にはちゃんと、生きる力を与えておるじゃろう?

 それも皆、その頃のわしが、ちゃんと殺した狐に報いたからなんじゃよ。もっとも、わしのせいで今ではスマーシュの眷族は、尾が二本になってしまったのじゃが……。

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